1 全体評価
名古屋大学は、基礎学術に立脚した基幹的総合大学としての役割と、その歴史的・社会 的使命を確認し、学術活動の基本理念として「名古屋大学学術憲章」を平成12年に定めて おり、自由闊達な学風の下、人間と社会と自然に関する研究と教育を通じて、人々の幸福 に貢献することを、その使命としている。とりわけ、人間性と科学の調和的発展を目指し、 人文科学、社会科学、自然科学をともに視野に入れた高度な研究と教育を実践することを 目標としている。第3期中期目標期間においては、創造的な研究活動によって真理を探究 し世界屈指の知的成果を生み出すこと、自発性を重視する教育実践によって論理的思考力 と想像力、国際性に富んだ勇気ある知識人を育てること、自律的なマネジメント改革等を 基本的な目標としている。
この目標の達成に向け、総長のリーダーシップの下、アジア諸国の国家中枢人材養成に 対する積極的貢献や、学生への継続的な経済支援を可能とする新たな自己財源を確保する など、「法人の基本的な目標」に沿って計画的に取り組んでいることが認められる。
(「戦略性が高く意欲的な目標・計画」の取組状況について)
第3期中期目標期間における「戦略性が高く意欲的な目標・計画」について、平成28年 度は主に以下の取組を実施し、法人の機能強化に向けて積極的に取り組んでいる。
○ トランスフォーマティブ生命分子研究所では、合成化学、動植物科学、理論化学の研究 者が一体となって研究を行うMix-Labにおいて分野融合研究を推進し、15件の特許出願 を行い、3編の共著論文を発表している。また、アフリカの農業に深刻な打撃を与えて いる寄生植物ストライガの撲滅に貢献する分子「ヨシムラクトン」の市販化に成功して いる。(ユニット「窒化ガリウム(GaN)半導体研究を中心に強化し『省エネルギーイノ ベーション』を推進」に関する取組)
○ 国際的視野をもった人材を育成するため、理学研究科にエディンバラ大学(イギリス) とのジョイント・ディグリープログラムを実施する「名古屋大学・エディンバラ大学国 際連携理学専攻」を開設し、1名を受け入れている。(ユニット「ミッションの再定義等 を踏まえた組織再編成・学内資源の再配分の推進」に関する取組)
○ これまで実施している女性活躍推進に加え、女性リーダー育成支援のための取組を発 展的に継続・強化するため、名古屋大学特定基金「女性リーダー育成支援事業」を設立
2 項目別評価
<評価結果の概況>
特 筆
一定の 注目事項
順 調
おおむね 順調
遅れ
重大な 改善事項
(1)業務運営の改善及び効率化 ○
(2)財務内容の改善 ○
(3)自己点検・評価及び情報提供 ○
(4)その他業務運営 ○
Ⅰ.業務運営・財務内容等の状況
(1)業務運営の改善及び効率化に関する目標
①組織運営の改善 ②教育研究組織の見直し ③事務等の効率化・合理化
【評定】中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由) 年度計画の記載7事項全てが「年度計画を十分に実施している」と認められる とともに、平成27年度評価において評価委員会が指摘した課題について改善に向 けた取組が実施されているほか、下記の状況等を総合的に勘案したことによる。
平成28年度の実績のうち、下記の事項が注目される。
○ 事務系職員の職務能力開発向上
事務系職員の国際化推進のため、近隣の愛知県公立大学法人、愛知教育大学、三重大 学、岐阜大学からも参加者を募って短期海外研修を実施し、ベトナム(7名)、フィリピ ン(5名)、カンボジア(7名)、インドネシア(3名)に約1週間、ドイツ(1名)に 約2週間、カンボジア(1名)に約3週間派遣を行い、現地の大学の教育方法や学生支 援等に対する理解を深めている。近隣大学と合同で実施したことにより、国際化に関わ る事務系業務の情報と経験が共有され、国際化推進への意識向上に加えて、職員の連携 強化につながっている。
(2)財務内容の改善に関する目標
①安定した財務基盤の維持
【評定】中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由) 年度計画の記載5事項全てが「年度計画を上回って実施している」又は「年度 計画を十分に実施している」と認められるとともに、下記の状況等を総合的に勘 案したことによる。
平成28年度の実績のうち、下記の事項が注目される。
○ 学生への継続的な経済支援を可能とする新たな自己財源の確保
教育支援のためのファンドレイジングを推進し、企業を経営する寄附者が設立した坂 本ドネイション・ファウンデイション株式会社の株式による寄附(時価評価額68億円相 当)を受けている。この寄附による有価証券の配当金を原資に奨学金を運用することで、 将来ものづくりに携わることを希望する経済的に修学困難な学生に原則2年間(毎月12 万円)継続給付する給付型奨学金「ホシザキ奨学金」を創設し、平成28年度には5名に 給付している。
(3)自己点検・評価及び当該状況に係る情報の提供に関する目標
①評価の充実 ②情報公開や情報発信等の推進
【評定】中期計画の達成に向けて順調に進んでいる
(理由) 年度計画の記載4事項全てが「年度計画を十分に実施している」と認められる こと等を総合的に勘案したことによる。
(4)その他業務運営に関する重要目標
①施設・設備の整備・活動、安全管理等 ②法令遵守等
【評定】中期計画の達成に向けて順調に進んでおり一定の注目事項がある
(理由) 年度計画の記載4事項全てが「年度計画を上回って実施している」又は「年度 計画を十分に実施している」と認められるとともに、第2期中期目標期間評価に おいて評価委員会が指摘した課題について改善に向けた取組が実施されている
平成28年度の実績のうち、下記の事項が注目される。
○ 施設整備の標準化による業務効率化
施設整備における標準仕様の一部について、コスト削減・抑制、メンテナンス性向上、 フレキシビリティ向上、バリアフリー対応等のため、独自の標準仕様を作成するともに、 業務の効率化及びユーザー要望に応じるため、イメージしやすい標準的な建築平面図を 作成している。さらに、契約、設計、施工の業務手順を標準化し、施設整備マニュアル を作成するとともに、事故歴等をデータベース化して運用することで、繰り返しミスの 防止やリスク軽減を図っている。
○ 解体予定の建物を活用した実験や防災訓練の実施
解体予定の建物(共同教育研究施設及び実験棟)を活用し、化学物質の燃焼実験や、 実火災に伴う煙の発生・流動実験等を実施(延べ10回、約90名が参加)するとともに、 同建物を名古屋市内の消防署に開放し、消防隊の訓練の場として提供している。消防隊 による訓練には延べ18回、約360名の消防隊員が参加したほか、学内構成員と共同で訓練 を実施するなど、大学での防火・防災、安全のための意識啓発とスキルアップを図って いる。
平成28年度の実績のうち、下記の事項に課題がある。
○ 情報セキュリティマネジメント上の課題
情報セキュリティを脅かす確率が高い事例が発生し、また、必要な情報セキュリティ 対策が講じられているとは言えないことから、再発防止に向けた組織的な取組を更に実 施することが望まれる。
Ⅱ.教育研究等の質の向上の状況
平成28年度の実績のうち、下記の事項が注目される。
○ アジア諸国の国家中枢人材養成に対する積極的貢献
平成26年度に開設したアジアサテライトキャンパス学院では、環境学研究科がモンゴ ルサテライトキャンパスにおいて新たにプログラムの提供を開始するなど、5研究科(法 学、医学、生命農学、国際開発、環境学)が7か国(ウズベキスタン、フィリピン、ラ オス、ベトナム、モンゴル、カンボジア、ミャンマー)で合計16名の国家中枢人材を学 生として受け入れている。(在籍学生総数30名)
○ 大学発ベンチャー起業の促進
平成27年度に設立した「名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャーファンド」の運営 に連動して、大学発ベンチャー起業を促進するための「スタートアップ準備資金」の公 募・審査を実施する「ギャップファンド委員会」を設立し、平成28年度分10件、平成29 年度分9件の参加5大学の研究室へのスタートアップ準備資金の配分を決定している。
○ 産学官連携リスクマネジメント体制の構築
安全保障・輸出管理及び営業秘密管理のリスクマネジメント体制を整備するため、営 業秘密管理体制として、責任者1名と担当者5名を配置するとともに、営業秘密管理に ついて、費用負担とリスクに応じた濃淡管理を基本とする秘密情報管理ルールを制定し ている。さらに、輸出管理に関する新電子申請システムを制作しリリースするとともに、 東海地区知財実務者情報交換会、産学官連携リスクマネジメント(技術流出防止マネジ メント)実務者研修会、九州地域大学輸出管理担当者ネットワーキング等にて技術流出 防止マネジメントの事例共有等を行うなど、他大学への普及を図っている。
○ 窒化ガリウム(GaN)研究をオールジャパンで推進する体制の整備
未来材料・システム研究所では、我が国が強みを持つ窒化ガリウム(GaN)研究をオ ールジャパンで推進するため、外国人教員4名の採用及び外国人招へい教員(客員教授) 3名を受け入れるとともに、クロスアポイントメント制度を活用し、国内研究機関から 6名の研究者を受け入れ、2名の研究者を他機関に派遣している。このほか、クリーン ルームの建設を開始するなど、他大学や研究機関及び企業が結集した研究実施体制の整 備を進めている。
共同利用・共同研究拠点
○ 学際分野研究の活性化を進める大規模データや大容量ネットワークの利用環境整備 情報基盤センターでは、大規模データ及び大容量ネットワークを利用する課題に対し て、大学の資源により整備を行った大規模ストレージシステムやネットワーク接続及び 高精細可視化システムを共同利用・共同研究に供しており、計算科学分野とコンピュー タサイエンス及びデータサイエンス分野との学際分野研究の活性化を推進している。 附属病院関係
(教育・研究面)
○ 献体を用いた高度な医療技術の修練
医療の進歩に伴い高度化する手術手技の修練等を目的として、献体を用いた医師向け の外科実技トレーニングコースを3回実施(合計33名が受講)し、高度な臨床解剖を学 び、手術・検査技術について修練を積む機会を提供するとともに、新たな手術手技の研 究開発を推進している。
○ 独立性と信頼性を担保した臨床研究実施体制の整備
新設した臨床研究品質管理責任者制度による認証(58名)、先端医療・臨床研究支援セ ンターのデータ品質管理部門(データセンター)における入退室管理、サーバーへのア クセス制限等のセキュリティシステムの導入等により、臨床研究の独立性と信頼性を担 保する仕組みを構築し、質の高い臨床研究の実施体制を整備している。
(診療面)
○ 高度心不全治療実施体制の整備
重症心不全に対する高度治療を提供するため、重症心不全治療センターを新設すると ともに、東海北陸地区で初めて心臓移植実施施設認定を取得したことにより、地域にお ける重症心不全治療の中核病院として、植込型補助人工心臓(VAD)治療から心臓移植 に至る高度心不全治療提供体制が整備されている。
(運営面)
○ 外部評価を活用した病院運営の質向上
継続的・安定的な病院運営のための外部評価として、「日本版医療MB賞クオリティク ラブ(Japan Healthcare Quality Club)」のプロフィール認証を取得しており、当該認証に おける「病院が目指す理想的な姿」や「顧客認識」、「経営資源認識」等の要素を見直し、 患者及び職員の満足度を経営の軸に置いた改善に取り組むことにより、名古屋二次医療 圏(名古屋市における特殊な医療を除く一般的な医療サービスを提供する医療圏)にお ける自院のサービス及び経営の継続的な質向上を図っている。